冬の早朝、玄関先で父が叫ぶ。急いで着替えて、外へ出ると車がすっぽりと雪に埋まっていた。目の前には、ラッセル車が置いていった雪の塊が、氷の壁となり、まるで巨大な氷山の如く、立ちふさがっている。
母と妹も助っ人に駆けつけてきた。ドカ雪の朝は家族総出で氷雪と戦う。車の上に積もった雪がしばれつき、雪下ろしができない。エンジンをしばらくの間かけっぱなしにして、しばれついた氷を融かす。そしてみんなで力一杯車を押して、雪の中から脱出させた。
ぼくはふと、父の車が出た跡を見た。排気ガスで雪が真っ黒になっていた。
我が家の愛車はディーゼルエンジンで、マフラーから黒い排気ガスを吹き出す。この排気ガスにNOX(窒素酸化物)が大量に含まれ、光化学スモッグの大きな要因になっている。「排気ガスで汚れた雪がNOXをたっぷりと含み、それが溶けて土にしみこんで北海道の大地を汚染するんだ。そればかりか地球温暖化の原因にもなっている。どうすればいいんだ・・・」ぼくは胸が痛んだ。
この夜、この問題について両親と話し合った。「うちの愛車、大好きだけど地球に優しいハイブリットカー(低公害車)に買い換えようよ。」まずぼくが口火を切った。「あと十年くらい乗ろうと思っているんだ。ひとつのものを末永く使うもの、環境に優しいといえるんじゃないか。」「買い換えても、中古車として誰かが買って乗るかもよ。」・・・議論は深夜まで続いた。家族全員が真剣に環境のことを考えていた。ひとつのことで、家族でこんなに議論したのは始めてである。うれしかった。
日曜日、家族で自動車販売店に行った。ハイブリットカーの仕組み、下取りに出した車の行方、疑問に思うことを全部きいてきた。我が家の愛車は古いので中古車市場には出ず、解体され、部品の八割以上はリサイクルされるとのこと。ゴミはほんのわずかしか出ないらしい。ぼくも父も答えは決まった。しかし母は、資金、費用の面から首を縦に振ってくれない。ぼくは必死で環境問題を訴え続けた。そして、父のおこづかいを三割、ぼくのおこづかいを二割、1月まで遡って、無期限でカットするという条件で、ようやく母を説得。
大きな“痛み”を伴ったけど、小さな小さな一歩を踏み出すことができた。
今は小さな一歩でも、大きく前進させるために、ぼくは問題意識を持ち続ける。掛け替えのない地球を守るために、北の空からこの思いを発信し続ける。
雪深い北海道が乱打した警鐘を、ぼくはしっかりと受けとめることができた。
新雪のじゅうたんの上に大の字に寝転がって、ぼくは地球と固く約束した。
「おーい地球さん、ぼくは命を懸けるよ。」
雪の上から“契”のキスを交わした。
北海道 中学校1年 角谷 千飛路