2003年度優秀賞(中学生部門)〜大きな一言

「そんな所に埋めたらいかんですよ。」

毎年、夏休みになると、私達は田舎に住む祖父の家を訪ねる。四国三郎吉野川の支流、透きとおる流れを持つ滑川で水遊びをするのが何よりの楽しみなのだが、この美しい川も夏になると都会からのお客さんでゴミが多くなるのだ。水面より高い位置の枝に引っかかったビニール袋は、大雨で水かさが増えた時の置き土産である。私達は泳ぐ前、こんなゴミを拾い集める。ビニール袋、空き缶、ペットボトル・・・、小さなスーパーの袋に入りきらなくなることもある。

ある日、私達の気に入りの場所に先客があり、その中の一人がビール瓶を落としてしまった。破片を集めたのはいいのだが、なんと川原に穴を掘って埋めはじめた。その時、祖父がさらりとかけたのが冒頭の一言である。きまり悪そうにガラス片を拾い始めた人達を手伝いながら祖父は続けた。

「川原は水が出たら沈んで流れるき、埋めたちいかんがです。流れた破片を誰かが踏んだらケガするろう。遠い所からおいでちゅうがじゃったら、わしが持って帰りますき、これに入れてください。」

と、ゴミ袋を差し出した。祖父は淡々と破片を拾い続けている。私はドキドキした。知らない人に注意するなんて私にはできない。祖父にそう言うと、こんな返事が返ってきた。 

「けんど困るろう。川も汚れるし、危ないし。それに上(上流)が汚れたら、下(下流)の吉野川も汚のうなるがで。皆がきおつけな。」

私は、はっとした。祖父の視野は私よりはるかに広く、川全体を見つめている。ゴミを拾うのも、こうして声をかけるのも、祖父にとってはあたり前の事なのだ。冷たい水に足をつけながら考えている間にも、祖父は鎌で川へ下りる獣道の草をざくざく刈っている。草の間に空き缶を見つけたようでゴミ袋に入れ、またざくざく。二十分程で道は歩きやすくなり、祖父の足下に大きな草の束ができていた。

「今晩の牛の餌よ。一石二鳥じゃねえ。」

「じいちゃん、それだけとちゃうで。草が刈られたら、ゴミもほかしにくうなるし、一石三鳥やん。」

ニコニコ笑う祖父の横顔には汗が光っている。祖父が何気なくしていること、それは小さなことだけれど、自然を守るのに欠かせない事だと思う。何気なくポイ捨てをしてしまう人、何気なく高山植物を採ってしまう人・・・、小さな事だけれど、皆がしてしまったら美しい自然は残らない。私達皆が自分の行為の結果を考え、視野を大きくして行動しなくては・・・と思う。祖父のように、私も自然に「一言」声をかけ、行動できる人間になりたい。

「お先に。」さっきの先客が声をかけて帰っていく。手にはガラスの入ったゴミ袋が握られている。「気をつけて。」私も祖父と一緒に大きな声を返した。

2003年 優秀賞(中学生部門)
大阪府 中学校1年 柳原 茉美佳