それは、小さな卵から始まった真理さがしだ。初めて見るサケの発眼卵は、お寿しのイクラより大きくて固い。なにより違うのは、大きな黒い眼が入っている事。冬休み前、学校で福島県木戸川漁協の卵をわけてもらった。フ化して、5cm程になったら桜と大江戸花火の名所、隅田川へ放流するプロジェクトだ。
サケと言えば、産卵時に生まれた川に戻ってくるとても不思議な魚である。しかし、なぜこんなコンクリートにおおわれ、稚魚が休む場所もない川へ放流するのだろう。コンビニの容器やペットボトルがたくさん浮かび、絶えずにごっている。これでは弱い稚魚は、生きていけないだろう。なぜこんなにも人は、川を汚してしまったのかと悲しくなった。
数日後、5個の卵のうち4個が白く変色する。心配になり、千歳のサケ水族館にメールを送ると、飼育係の菊池さんから返事がきた。かわいそうに白い卵は死んでしまったようだ。
そしてぼくの疑問、なぜ環境の悪い東京の川に放流するかを教えてくれた。「確かに自然保護とは言えないが、サケを放流する事で、地域の川と環境を守る気持ちを持つためなのでしょう。これは、今後しっかり考えていかなくてはいけません。あなたが疑問に思った事にこそ、意味があるのです。」ぼくは、地域の川の環境や、なぜ他の生き物と人間の共存が大事であるかを、今まで真剣に考える事はなかった。サケが川に戻ってくる事に、答えの真理がありそうだ。卵をくれた先生に話すと「では頑張ってフ化させて下さい。」と応援してくれた。
「やったぞ!!」冬休みの朝、水そうをのぞくと待望の稚魚が一匹生まれていた。水温を上げないよう、保冷剤や氷で管理した甲斐があった。その姿は、おなかに大きなイクラを付けた透明なしらすのようだ。しばらくおなかの栄養だけで暮らしていけるのだ。元気にしっぽの先までぴーんと伸ばしている。「そうだ、こいつの名前は“元気”だ。お前を仲間のいる古里の木戸川へ、春に連れて行ってやるぞ。」
元気をみつめながら考えた。サケが古里の川へ戻る理由を。サケは約4年間、北の大海を旅し、ボロボロになりながら川をさかのぼってくる。そして産卵を終えると力つき、その身を川の栄養へとささげ役目を終える。自分の子孫が他の生き物の未来を守るために。川から海へ、海から川へ、何万年も循環と共存がくり返されてきた。ぼく達に古里(地球)の自然を守る大切さを身を持って教える為。これがサケから学んだ自然と共存する真理だ。
サケと同じく人間にも生きる意味がある。それは決して、自然破壊などではない。守るためにあるのだ。今、古里の木戸川へと放たれた小さな命を!そして自らの役割をぼくは守る!
「じゃあな元気、4年後必ず戻ってこいよ。」
ぼくらの共存への夢は、元気と共に目指すあの大海原へと広がるのだった。
2005年 優秀賞(小学生部門)
東京都 小学校6年 安部 寛希